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2月14日  

それは男達の、普段とは違う戦いが繰り広げられる日である。
ある者は一人の者の心を仕留めるために。ある者はより多くの成果 をあげるために。
一見すれば愚かしいが、リング上では決することが出来ない勝負の為に、男どもは知恵を絞り、心を痛めるのである。

「今日は何の日か知ってるか?」
  まだ夜も明けきらない早朝の洗面場で、アシュラマンが唐突に切り出した。
「今日?・・・ああ、バレンタイン・デーか 」
 アシュラマンの傍らで、身を切るように冷たい水道水で顔を洗っていたブロッケンJr.は顔を拭きながら答えた 。
「俺は詳しくは知らないが、確か日本じゃこの日は女が好きな男にチョコレートを送ると言う風習があるそうだな」
 アシュラマンは最近正義超人入りしたばかりで、人間界に住み始めてまだ日が浅い。
「まあ、一応そういうことになっているがな。だが、最近じゃあ本命チョコと義理チョコといって、意中の相手用とそれ以外の男達用との2種類を分けるっていうのが主流らしいぜ」
 日本でも祖国・ドイツでも女性人気の高いブロッケンJr.は流石に何度となくチョコをこの日にもらっていた 。
 だが、日本でもらったことのあるチョコレートは、何故かチョコによって中身やラッピングが物によって大きくランクが違っていて、そこで初めて本命チョコと義理チョコは違うと言うことを知ったのだった。
 そのことをアシュラマンに話すと、アシュラマンはしきりと考え込みながら言った。
「要するに沢山もらえれば良いという訳では無いんだな?」
「義理でも沢山もらえりゃ、男の面目は立つぜ」
「ううむ。奥が深い・・・」
 普段は戦いしか頭に無い超人達だが、女性にモテるのが嬉しくない訳が無い。思考回路は基本的に普通 の男性と変わらないのだ。
「お前らなあ、この山ん中でどうやってチョコレートをもらうつもりだ?」
 後から洗面場に入ってきたバッファローマンが、彼にとってはもの凄く低いドアを身を屈めながら入ってきて言った。
 そう、彼ら血盟軍のメンバーは『冬の強化訓練』と称した合宿をしている最中なのだ。因みに発案者は言うまでも無くキン肉マンソルジャーことキン肉アタルである。
「そうか!ここは山の中だったか!!」
「こ、ここにはファンはおろか、地元の奴でさえあんまり来ないんだよなあ・・・」
 がっくりと肩を落とす2人。合宿所はソルジャーがどんな伝手で借りたのかは不明だが、文字通 り辺鄙な場所にあった。一番近い隣家まで車で1時間。町、というか集落までだと車で2時間と少し。暖かいシーズンになれば猟師が狩りをしに近くのところまで来るが、真冬の寒波吹きすさぶ山奥に入ってくる者はまずいない。
 初日の夕飯として、訓練の一環として行われた山中バトル・ロワイヤル中にザ・ニンジャがバッファローマンと間違えて仕留めてしまった哀れな猪が出されたというのは、微妙に笑えない実話である。
「そもそも俺達がここに居ることは、一部の正義超人しか知らないんだ。今年はまあ、諦めろ」
「うう〜・・・・」
 まだバレンタイン・デーに未練があるアシュラマンとブロッケンJr.を放っとくと、バッファローマンはさっさと洗面 を済ませて出て行ってしまった。

 この日もいつもと殆ど変わらず、全員が自分のトレーニングや当番の家事をこまごまとしながら、午前中を過ごした。
 しかし、午後に入ってから事態は一変した。

ぱらららららららら・・・・

寒空の中を一機の輸送用ヘリが飛んできたのを最初に見つけたのは、血盟軍の中で最も視力が良いザ・ニンジャだった。
 昼食の後片付けを済ませ、台所を簡単に整理しているときに、ふと見た窓から見えたのだ。
 以前の合宿中にも何度か輸送ヘリが来て、宅配便やら補給物資やらをパラシュートで落としていったことがあったので、今回もそれかとも思ったが、ふと考えてみるとそれもおかしな話である。
 今回の合宿は親しい友人と、何か会ったときの為に正義超人委員会にしか行き先を教えていない。食料品も2日前に届いていたため、今日は何かが送られてくる予定はなかったはずだ。
(まさか・・・敵か?!)
 はっきり言って血盟軍の面子は皆、敵が多すぎる。メンバー5人中3人が元・悪魔超人で、未だに彼らを裏切り者として敵視している悪魔超人はわんさといるし、ブロッケンJr.は言わずもがな、悪行超人から思いっきり狙われている。ソルジャーは・・・あの性格だし、どこでどんな敵を気付かないうちに作っているか、検討もつかないから恐ろしい。
 着けていた前掛けを外すと、たたまずに放り出し、勝手口に張り付いて窓から様子を伺った。ヘリはもう頭上まで来ているのだろう、姿は見えないが風を斬るモーター音がけたたましく聞こえる。他の連中も流石に気がついているだろう。
 轟音が山の静寂を打ち破る。いつまでも音が去らないのは、建物の上で空中停止しているからだ。
「リング以外の戦いか・・・久々だな」
 そう口に出して言ったのは、久しぶりの実戦の予感のせいか。流し台の下から、包丁挿しに閉まっておいた忍刀を取り出す。
 しかし、急に音が遠ざかり、代わりに何かもの凄く重そうな物が地面に落下した音が聞こえた。
 再び外を見るとヘリはもう空におらず、代わりにだだっ広いだけの前庭に馬鹿でかいコンテナがパラシュートを纏って鎮座していた。
 不審そうに眺めていたザ・ニンジャだったが、急に電話のベルが鳴り響き、思わずその方向に忍刀を投げつけそうになった。
 が、電話は九死に一生を得た。いつの間にか電話の傍に立っていたソルジャーが片手でザ・ニンジャを制し、ゆっくりと受話器を取ったからだ。
「・・・・もしもし」
 低くは無いが、重厚で威圧感たっぷりの声で電話の相手に言うソルジャー。ザ・ニンジャはそれを固唾を飲みながら見守る。

『おぉ〜?!その声はアタル兄さんですな?!ワタクシ、キン肉スグルでありマッスル!』

どおっ!

それまでの緊迫した空気をぶち壊し、さらに超強力な水洗トイレに流すような間の抜けた声が、ソルジャーはおろかザ・ニンジャにまで聞こえ、2人は思わずキャラに似合わないようなズッコケ方をしたのであった。
『おっ?おっ?!どーしましたか、兄さ〜ん?!』
「・・・スグル・・・今我々は忙しいのだが・・・・」
 そういうソルジャーの声にはもはや迫力はおろか張りすらない。しかも、怒りを向けたい相手は彼の可愛い弟である。本人はそういうつもりは無いのだが、弟に甘くなってしまっているのは、もはや見紛うことは無い。
『というと、もう見たんですね、アレを!!いやー、さすが私の兄上と友人達!!私には適わないですが、みんな捨てたもんじゃないですな!』
「・・・アレ、とは・・・・?」
『え、違うの?まだ荷物届いてませぬか?』
 思わず顔を見合わせるソルジャーとザ・ニンジャ。電話の向こうではスグルが底抜けに明るい声でくっちゃべっている。
「・・・あれはあれで、私を慕ってくれているのだがな・・・・」
 こめかみを抑えるソルジャー。
「あれ位明るくないと、正義超人は務まらないんでござろうな・・・・」
 眉間に皺を寄せるザ・ニンジャ。
『兄さ〜ん?!もぉしも〜し!!聞こえてますか〜☆』
「・・・・」
 2人は揃って溜息をついたのだった。

「・・・で?」  バッファローマンがザ・ニンジャに重々しく聞いた。集合した血盟軍のメンバーの前には、山と詰まれた小箱やら袋やらがあった。
 その愛らしいラッピングを見ずとも、部屋中に広がる甘ったるい匂いから中身はバレンタイン・デーのチョコと分かる。
「つまり、これは我々宛のチョコらしい」
 ザ・ニンジャに変わってソルジャーが答えた。
「先程スグルから連絡があってな。我々の居場所が分からないからということで、宇宙中から超人委員会に我々宛のチョコが送りつけられてきたらしい」
「一応すぐに食べないといけないと思われるものを送ってきたそうでござるが、しかし、この量 は・・・」
 げんなりしたような声でザ・ニンジャがぼやいた。
 血盟軍が全員がかりでやっと運び込むことが出来たコンテナは、隙間が無いほどにチョコが詰め込まれていた。コンテナの大きさは、貨物列車が引っ張っているアレを思い出してくれれば良い。
「こ、これを俺達にどうしろって言うんだろうなあ?」
 アシュラマンが喘ぐように言った。チョコが欲しいとは思ったが、こんなに欲しいと考えたことはない。
「喰え、ってこと、だろうなあ」
 ブロッケンJr.の声も心なしかイントネーションが変である。
 全員が押し黙ってしまった。血盟軍全員の総重量の何倍もの量のチョコ。絶景とさえ言える光景が彼らの眼前に広がっていた。
「・・・・とりあえず、各自で自分宛のを取れ」
 ソルジャーが指示し、全員がやっとのことでのろのろと動き始めた。

「これは・・・俺宛だな。そっちのはブロッケンJr.宛だ」
「キャプテン、あんたのはここに置いておくぞ」
「うでたまごさまへ・・・って、ここにゃ居ないぞ」

 日が傾き始めた頃(といっても冬の山の中だから、まだ4時くらいだが)になって、やっと山がいくつかの小さな丘程度になった。
 それぞれが自分の山を眺めては、それなりに満足そうに眺めている。とんでもない量 だが、朝にブロッケンJr.が言っていた通り多いとやはり気分が良いものである。

「へっへー。どうやら俺が一番みたいだな!」
 ブロッケンJr.がそういって自分の山を誇らしげに指差した。彼の山が確かに一番でかい。高さだけ見ても、アシュラマンの肩くらいはある。裾野もかなり広い。
「カーッカッカ!俺のを見るが良い!!お前のよりはるかに高級なものが多いぞ!!」
 アシュラマンのチョコは蒼々たるものばかりだ。分かりやすいものを言えばゴディバのような高級なものが多い。量 では後ろから数えた方が早いが、価格はまずトップ間違いない。
「バッファローマンのも中々多いでござるな。しかも手作りが多いようだ」
「ザ・ニンジャのはラッピングとか、すごく凝っているな。これなんかリボンがシルクみたいだぞ」
 因みにザ・ニンジャとバッファローマンのは似たり寄ったりの量である。しかし、ブロッケンJr.のと比べると見るからに気合の入り方が違っていた。
「けっ!数は人気のバロメーターだぜ。そんなちょっとで喜ぶなよ、みっともねえ!」
 アシュラマンの高級志向派とは正反対に、ブロッケンJr.のチョコは巨大マーブルチョコやら「えっちな気分になる」チョコやら、何だか変なパーティ・グッズの店に売ってるような玩具のようなものばかりだ。
「数があればいいってのは庶民の考えることだぜ。ましてや何だ、お前宛の、その面 白え奴はっ?!」
 ブロッケンJr.のチョコの山の中には、おっぱいチョコだの××チョコだの下ネタ的なものまであって、一部は義理を通 り越したネタ・チョコといった風情である。
「うるせえな。お前こそ、そのカードはなんだよ。見せろ!!」
「あ、こら!やめんか!!」
「えーと、何々?『プリンス・アシュラマン様。正義超人なんかに騙されてても、俺はいつまでも貴方様を信じて待っています。PS.修行時代から好きでした。 ヘル・コマンダーより』・・・って、男からじゃねえかよ?!」
「人のを勝手に読むな!!ていうか、こいつそういうシュミだったのか?!」

「ええいっ!!男がつまらぬことで騒ぐな!!」
 ソルジャーの一喝が家屋を揺るがした。取っ組み合いを始めていたブロッケンJr.とアシュラマンだけでなく、バッファローマンやザ・ニンジャまで、思わずソルジャーの方を向いた。
 最初の怒声とは打って変わって、静かに、しかし重々しくソルジャーは語りだす。
「正義超人たるもの、民衆の応援が無ければ戦えないのは当然の理。なのに、見た目や値段、ましてや数で、人々の我々を思ってくれる心を量 るとは正義超人として恥ずかしいとは思わんのか・・・!」
 その言葉に4人は強いショックを与えられたようによろめいた。
「お前達は確かに強い。しかし、その強さを支えてくれたのは一体誰だった?」
 止めとばかりに、ソルジャーはそっと言った。

「そうだったよ・・・・俺達は、仲間だけじゃない、観客を始めとする全宇宙の人たちが応援してくれたからこそ今まで生き延びてこれたんだよな」
 うな垂れていたブロッケンJr.がアシュラマンに言った。
「ああ。この手紙にも書いてある。俺が正義に目覚めてからずっと、俺を応援しに試合を見に来てくれていたそうだ。差出人は、まだ10歳の女の子だ。こんな俺のことも見守ってくれる人がいるんだな・・・・」
「俺のにもある・・・・俺がバッファロー一族の生き残りだと言ったときに、どんなに強い超人にも辛い過去と、それを乗り超えてきた経験があるのを知って、身近に感じられるようになったと・・・・」
 そう言ったバッファローマンは鼻をすすり上げた。目元には小さく光るものがある。
「拙者たちは、こんなにも人々から思われていたんでござるか・・・」
 ザ・ニンジャが見つめる先には、チョコレートの山があった。
最初は引いてしまったが、この一つ一つに人々の思いが込められていると思うと、1つとして疎かに出来たものではない、そう思う4人だった。

「ソルジャー、俺達が悪かったぜ。俺達はなんてつまらないことで意地を張ってたんだろうな」
「分かってくれたか、アシュラマン」  
流れる涙を拭おうともしないアシュラマンと、ソルジャーは手を取り合う。そこにバッファローマン、ブロッケンJr.、ザ・ニンジャも加わった。
「俺達は幸せ者だな」
「そうだな」
「ああ。世界一の果報者でござるよ」
 彼らは再びチョコの山を見つめた。いや、彼らにとってそれは、もはやただのお菓子ではない。人々と超人を繋ぐ絆に見えるものであった。

 おもむろにバッファローマンが口を開いた。
「・・・・キャプテン。今気付いたんだが・・・・アンタの一番少ないな」
「そう言えば・・・・そうでござるな」
 ザ・ニンジャも同意したように、確かにソルジャーの山が一番少ない。多分バッファローマンなら一抱えで持てるだろう。

 続けてアシュラマンとブロッケンJr.も問い掛ける。
「アンタ・・・そういや、ソルジャーを名乗る前はなんて名乗ってたか知らないが、その名前とか正義超人委員会に登録して、公式発表したか?」
「むしろソルジャー宛のは皆、登録しなおさない限り本物の(故)ソルジャーのほうに行くんじゃ・・・」

「・・・・・」  

全員が押し黙る。 (まさか一番少ないのが自分だから、俺たちのが羨ましかっただけなんじゃないか――っ!!)
 誰と誰の心の叫びかは、まあ言うまでも無い。

「・・・・よし。こうしよう」
 ソルジャーは小さく呟くと、おもむろに他の4人を部屋の外に押し出してしまった。
「お、おい!ソルジャー!何をする気だーっ?!」
  押し出されながらも必死に食い下がるアシュラマンの視界の隅に、いつの間に部屋に持ってこられたのか分からないが、巨大な鍋とガス・コンロが映った。
「秘密」
ソルジャーはそう言うと、無常にも4人が見ている前でドアを締め切り、鍵をかけてしまう。
「まさか・・・やめろ!!やめてくれーっ!!」
「大人気ないでござるよ、ソルジャー殿!!」
「ていうか、それ皆の気持ちなんだぞ?!」 「なんでも煮込むなーっ!!!」
 廊下に悲鳴が響き渡る。
 数分後には彼らの願いも虚しく、ドア越しに暖かい風とチョコレートの焦げる匂いが漂ってきた。
 そして最期通告。
「おい、皆。特製チョコレート・フォンデュが出来たぞ」

  扉が開かれる。そこには阿鼻叫喚の煉獄が待っていた。

「だからアンタ、何でも煮込むなーーっっ!!!」

 

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 富山平野豪雪丸さんから血盟バレンタイン小説頂きました!

 「元ネタ提供者は友人で、「ソルジャーって住 所不定っぽい」
  という神をも恐れぬ一言から、いつの間にか話 が一つ書けてました(汗)」

  とのことです。

 兄さん、住所不定どころかキン肉星の戸籍すら消えてそう…(汗)
 家出不肖息子はキン肉王家では亡き者なんですかね〜<ホロリ
 (大王、「1人息子のスグル」発言ある死)

 血盟メンバーも人気アイドル(笑)超人ズだからVBチョコもハンパな量 じゃないですよね〜!?
 ぷぷ。しかし、兄さんの分のチョコを送られたソルジャーマンの反応も気になりマス!

 住所不定で情緒不安定な兄さんに血盟ズ、がんばれ☆

 ステキSS、有難うございました!


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