× 林檎日和のその夜に ×

 

 

 

 

 

 

 

空が 蒼い。

今日も善い天気だ。

絶好の洗濯日和でゴザルな。

 

 

 

……………

……………

…拙者は主婦か。

 

 

 

喉の奥で苦笑いしつつも手は洗濯籠を握りしめている。

 

ここはとある山荘。
2週間程前に波瀾の連続だったキン肉星の「王位争奪戦」が終決を迎えた。
結果、キン肉スグルが王位を継承し、この地球から新たな王を故郷へと見送ったばかりだ。

争奪戦終了時、キン肉スグルが放ったキン肉族の『奇跡』ともいえる
「フェイス・フラッシュ」にて 何人かの超人が死の国から還ることを許された。
そう、我等「超人血盟軍」の面々も。

 

考えてみると、争奪戦に加わった時点では「血盟軍」のメンバー全員での交流は無かった。
ドイツのブロッケン邸へ集合した時が全員の初顔合わせだったが、
その後すぐキン肉マンソルジャー(いや、キン肉アタル殿か)は
「名古屋城で待つ」と言い残すと姿をくらまし、 残った4人はそのまま日本へ向った。

そして即、試合だ。
…よく、チームワークプレイが出来たものよ…
(あの激励の陣すら即席だったものな…肩当ても前もって創っておいて良かった…)

と、いう訳で「血盟軍の交流を深めよう」と
半ば強制にアタル殿にこの山荘に引っ張られて来たのだ。

この山荘はアタル殿が日本に居る間に何度か使用していたそうだ。
管理は超人の主人と人間の奥方の老夫婦がしているらしい。
しかし、その老夫婦は我等が来る前日に孫が産まれたとかで
娘の嫁入り先へ出掛けたばかりだ。

……つまり、現在この山荘にはむさ苦しい(死)5人の超人しか居ない。

戦士の休息。という名目の筈だったんだが……

 

 

 

誰が家事をするのだ!?

 

 

 

山荘へ来た初日の夜は酒を片手に語り明かした。
酒の肴位は常備してあったようで 特に不自由は無かった。
寝るにもそこで雑魚寝だったしな。

やはり2日目になると、いろいろ不便なものが出てくるものだ。
まず、食事の用意。
ただでさえ、並以上の食欲の超人が5人も揃っている訳で。
食料の買い出しもしなくてはならないし それを調理しなくてはならない。

そして洗濯。
ヒマさえ有れば各々鍛練を欠かさぬ格闘家ゆえ、
修行に汗を流せば洗濯物も増える。

他にも多々挙げればキリが無いが
最低限、 この二つはなんとかせねばならない。

まずは「順番制」で
買い出し・バッファローマン/調理・ブロッケンJr /
掃除・ザ・ニンジャ/洗濯・アシュラマン
と、 くじ引き(古風な…)で決めた。
アタル殿は「ここの主人(あるじ)」とばかり、何をする気もないようだ。

………その日の夜の食卓は語るにも凄惨なものであった………

ブロは今まで「包丁」すら持ったことが無かったらしい。
(天然の包丁を身に付けているとゆうのに)
出来ないのなら一言云えばいいだろう、と思ったが
負けず嫌いな性格ゆえ、それは無理な話だろう。

それ以来、調理は拙者かバッファがすることになった。

アシュは「調理」は出来るのだが「やる気」が持続しない。
悪魔騎士時代、初めて逢った頃の彼は箱入りのお坊っちゃんだった為
使用人に身の回りの事を任せて、格闘以外何もしなかった。
(魔界の王子様だったとはつい最近まで知らなかったが)
だが色々苦労が有った末、基本的な生活の心得はすぐに覚えた。
頭はいいので覚えるのは早いのだが、自分の興味の無いものにはすぐ飽きる。
ゆえに「調理」を任せると下拵えまででやる気がなくなり 、
料理が完成しないのだ。

バッファは悪魔時代には名前はよく耳にしていたが
直接面識が無かったので彼の事は詳しくは知らなかったゆえ
外見のイメージからして調理は無理かと思われた。
だがしかし、
容姿とは裏腹にあの巨大な手から繰り広げられる
華麗な包丁捌きには思わず拍手が出そうになった。
バッファ曰く、「一人暮らしが長ければコレくらい当たり前に出来る」
……それが当たり前じゃない者も居るのだが……

家事全般が普通に出来る拙者が、
現在の山荘の細々とした家事を仕切っている訳だが…
仕切るもなにも「出来る」モノが限られてしまっていては己がやるしかなかろう。

「やりたくなけりゃ、やらなきゃいーじゃん」
とブロは呑気に云っていたが。
(じゃあ貴様は飢え死にしたいのか!?)

文句を云いながらもついつい動いてしまうこの性分が憎いことも有る…

 

 

 

蒼い空の下、白いシーツのシワを伸ばし、洗濯竿に掛ける。

その自分の姿を可笑しくも、 なにか安堵のようなものが胸の奥に広がる

「………拙者は、そして皆も 生きて…いるのか…」

 

 

 

 

 

   「……その前掛けは自前でゴザルか…?」
キッチンで野菜を洗うバッファはその大きな体に深紅のエプロンを身に付けていた。
「おお!情熱の赤だぜ!似合うだろう!?

自慢気に胸を張る。
たしかに、メンズデザインでシンプルな形はバッファに似合うとは思うのだが、
よく、そのサイズが有ったな…と。

「手伝おう。」
窓の桟に腰掛け、洗い終えたジャガ芋を手にする。
「いーのか?お前さんの方が何かと忙しいだろ?」
……家事の大変さを理解出来るのはここにはこの男位か…
ただその一言で身が軽くになった気がする。
「粗方済ませた。バッファ、包丁取ってくれ。小さい方でいい。」

窓の外からは庭が見渡せる。
1階がホールになってる為かキッチンが2階に有る。
滑るようにジャガ芋の皮を剥く。
昨日、ブロに「林檎の皮剥いてるみたいだ」と云われたな…
芽を避け剥いた皮が螺旋状に渦を巻いている。
「……ふつう、ジャガ芋の皮はそんな風に剥けないぜ〜」
メイクイーンならまだしも男爵では難しいのか。
バッファが同じようにジャガ芋の皮剥きに挑戦していた。
どうやら敗退したらしい。
(こんなモノで競いあってもなぁ…)

「…なぁ、いつまでオレ達はここに居るんだと思う?」
人参の皮を剥きながらバッファが問いかけた。
その問いは自分の中にも有った。
だが返答できる事といえば
「……アタル殿次第だろう?」
そんな答を待っていた訳ではないだろう。

しばし無言のまま皮を剥く音だけが聴こえる。
「一生、なんて事はないだろうが そろそろ真の目的を知りたいよな」
自分もそう思ってはいるのだが。
『真の目的』自体が有るのかも怪しいところだ。
アタル殿の考えている事は誰も解らない。

「これで全部でゴザルな。」
最後の剥き終えたジャガ芋を鍋の中へ転がす。
「おう!今夜はスペイン風の煮込み料理だ!楽しみにしてな!」
野菜で覆われた鍋を抱えバッファがコンロの方へ向った。

さて。この膝の上のイモの皮の残骸をゴミ箱へ…
と膝の上にに敷いた紙ごと手に取る。
ふと、窓の下を覗くと木陰でのんびりしているブロが見えた。

………………ザバッ

ブロの頭上めがけ、イモ皮を落とす。

「…………………!!!!」

声にならない叫びが下から響いた。
(そんなに驚く物体ではあるまいに )
うむ。軽いモノだったが上手く命中したようだな。

イモの皮にまみれたブロが上を見上げる。
拙者は窓の桟へ腰を降ろしブロの行動を観察するように眺めた。
「……!!ニンジャ〜!?コレはてめえの仕業か〜!?」
「……他に誰が居る」
「……(怒)オレの軍帽イモ皮まみれにしやがって〜!!」
「それ位避けられなくてどうするのだ」
「…!くっそ〜〜!そこを動くなよ!」

やれやれ。短気だな。
あれ位で激怒するとは。
子供じゃあるまいし。

 

…………いや、拙者のした事の方が子供じみているな…

 

ガンガンと大きな音を発て階段を昇ってくる。
その音がだんだん近付いてきた。

鍋の火加減を調節しながらバッファが目で訴える。
「おいおい、ケンカは別の場所でやってくれよな〜」と。
「心得ている。」とこちらも目配せする。
争う気など毛頭ない。
だが、向こうはその気満々だろうが。

「ニンジャー!!」

バタン!と扉を開けると同時に怒鳴り声が響く。
扉の真正面の壁に寄り掛かる拙者に気付くと襟首を掴んできた。

「ヤルなら相手になってやるぜ!」
かなり熱くなっているな。
こちらの顔をガンと睨み付ける瞳から上に視線をずらすと軍帽の上がチラリと見えた。
帽子の上のイモ皮は螺旋状の形がキレイに帽子の凹凸にハマっていて落ちてないようだ。
(我ながら見事な切り口)
などと、感心してる場合じゃない。

「ええ!?ヤルのかよ!」
拳に力が入っている。
ここの生活の「のんびり」さにそろそろ飽きがきて暴れたい頃だろう。
無駄に力が有り余っているとゆうか……だが、それを押さえる術も必要というもの。

「……いいだろう。」

「おい!?」 バッファの驚きの声が飛ぶ。
「ここではやるなよ!今夜のメシが無くなるぞ!」
かなり心配してるようだ。
そりゃそうだろうな。しかし

「いや、ここでやろう」

「なにー!!?」

「オレは何処でもかまわないぜ」

先程、ジャガ芋を剥いた小ナイフを手にする。
「なんだ?刃物を使うのか?」
ブロが鼻で笑った。
「オレはコレが有るから構わないぜ」
右手を水平に構えニヤリと笑う。

…そのナイフの持ち手をブロに向ける。
「コレはお前が使え。」

「…は?…」

素頓狂な声を出しつつ、反動で右手にナイフを受取る。

「そしてコレもだ」

ブロの宙に浮いてる左手に赤い大き目の林檎を乗せた。

…………………

ブロが理解するのにしばし間が有った。

「なんのつもりだー!莫迦にしてンのかよ!」
「莫迦にされたくなかったら、それを剥いてみろ」
口を開け呆然としているブロの帽子の上に手を掛け、
イモの皮を降ろし、目線の前に摘み挙げる。

「……お前は『林檎の皮剥いてるみたいだ』と云ったな?
では、このようにその林檎を剥いてみろ」
「……っつ、オレはそんな事しに来たんじゃねえ!」
「その林檎をこんな風に向けたらいくらでも相手になってやる」
螺旋のイモの皮を弄ぶようにクルクル回す。

「クソ!やってやろうじゃねーか!」

…………単純な奴だ……………
(まさかこんな手に乗るとは思わなかった)

だが、善い機会と思った。
『あの夜』のブロの事を考えると。
誰も教えてくれなかったなら教えてやればいい。
今まで必要で無かったモノに出逢えば出来ないのは当たり前。

たかが林檎の皮剥きさえ。

夢中で林檎と格闘している姿はとても
「正義超人に名を馳せるブロッケン・Jr」の姿には見えない。
ごく普通の不器用な青年の姿だ。
チラリと横目にバッファを見る。
ケンカ中止に安心したのか調理に専念している。

(我等も「戦い」が無ければただの人よな…)

そんな光景が嬉しいような空しいような。複雑な感情が絡み合う。
(「家庭的生活」をする「超人」の姿は異なものなのか…)

 

日が落ちた頃。
出掛けていたアタル殿とアシュが帰宅した。
「おっ?いい香りがするな〜♪今夜の料理人はバッファか?」
並べられた豪華で家庭的な料理を目前に
両手6本に抱えた荷物を素早く降ろし、足早にテーブルへ向う。
アタル殿は無言で既に席に着いている。

全員が揃うと、今夜の宴が始まった。

今日あった事、昔の思い出など、ささいな出来事を語りあう。
もう何日も同じように語りあっているのに話が尽きない。
……思った以上に「話好き」だったのだな…このメンバーは…
(男所帯で毎度話に花が咲くとは珍しいのではないか?)

食事も終え、お茶を出すタイミングで席を立つ。
同時に拙者はブロに目配せした。

「へへ〜!今夜はデザートが凄いんだぜ!」
ブロが席を立ち、キッチンの奥からなにやら取り出してきた。

「アップルパイだ!

大皿にのせた不格好なアップルパイをテーブル中央に乗せ自慢気に話す。
「オレが作ったんだぜ!」

一瞬、アタル殿とアシュが固まった。
あの夜の惨劇が身にしみているのだろう。

「な…なんだよ!?」
一転して不安気な表情になったブロ。
その後ろからトレーに紅茶を乗せてきた拙者が付け加える
「味見済みだから大丈夫でゴザル」
大きなため息と共に安堵の声が響く。

「なぁーんだ!私はてっきりあの夜の悪夢……モガッ!」
アシュの笑い面の口を押さえたバッファが
「早く喰おうぜ!冷めちまう前によ!」
と、アシュを押さえている反対の手の親指を立てる。

宴のフィナーレは少し砂糖の焦げた苦味の有るアップルパイで幕を閉じた。

 

 

「さて、今夜は皆に渡すモノが有る。」
真剣な面持ちのアタル殿を全員一斉に見つめる。

何だ?
何を渡すんだ?
やはり、これから試合(チーム戦)でも控えてるのか?
これは強化合宿の一環だったのか?

あらゆる疑問が頭を飛び交い、皆ゴクリと息を飲む。

「これだ。 」
各自包みを渡された。

包装を取ると出てきたものは……

「………布…?」

「………まさか試合用の衣裳とかじゃねーよな…」

「……でも、これって………?」

「………エプロンのように見えるが…?」

 

 

 

「エプロンだ。」

「はぁーーー!??(×4)」

 

アタル殿の答に4人の声が揃う。
「皆、使用人が居ないおかげで家事に紛争してるようだからな。せめてものプレゼントだ!」
もちろん、アタル殿の分は無い。

 

 

「なぁ、ソルジャー…いや、アタルさんよ、
コレは有難く頂くとして、オレ達はいつまでここに居るんだ?」

 

「……………ふっ」

 

含み笑をすると、アタル殿は部屋から姿を消した。

「………オレ、ドイツ帰っていいかな……?」
ブロが小刻みに震えている。

 

「……スペインで牛が待ってるしなぁ……」
「あ!私も連れてってくれ!バッファ!スペイン旅行もいいなぁ!」
漫才のような会話になりつつ、顔に笑いは無い。
青ざめている表情のバッファとアシュ。

 

「………拙者も、弟子達の元へ帰りたい…」
無駄な事と解りつつも、願わずにはいられない。

 

 

エプロンを握りしめ満天の星空を見上げる男が4人、
己の未来を案じている……

 

 

 

 

空が 遠い。

今夜も宵星空だ。

絶境の選択日でゴザルかな。

 

 

……………合掌

 

 

 

 

 

 

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
>いいわけ。
エプロンイラスト一号の忍&牛のイラストの
小説版……って事で……

……すみません!!(平謝)

江中屋マジで初めての小説です!
今まで絵しか描いた事ないのにチャレンジしてみました〜(汗)
読み直すと自問自答の嵐ですが……
鍛練を重ねマッスル 。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

 

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