× 林檎日和のその夜に ×
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空が 蒼い。 今日も善い天気だ。 絶好の洗濯日和でゴザルな。
…………… …………… …拙者は主婦か。
喉の奥で苦笑いしつつも手は洗濯籠を握りしめている。
ここはとある山荘。 争奪戦終了時、キン肉スグルが放ったキン肉族の『奇跡』ともいえる
考えてみると、争奪戦に加わった時点では「血盟軍」のメンバー全員での交流は無かった。 そして即、試合だ。 と、いう訳で「血盟軍の交流を深めよう」と この山荘はアタル殿が日本に居る間に何度か使用していたそうだ。 ……つまり、現在この山荘にはむさ苦しい(死)5人の超人しか居ない。 戦士の休息。という名目の筈だったんだが……
誰が家事をするのだ!?
山荘へ来た初日の夜は酒を片手に語り明かした。 やはり2日目になると、いろいろ不便なものが出てくるものだ。
そして洗濯。 他にも多々挙げればキリが無いが まずは「順番制」で ………その日の夜の食卓は語るにも凄惨なものであった……… ブロは今まで「包丁」すら持ったことが無かったらしい。 それ以来、調理は拙者かバッファがすることになった。 アシュは「調理」は出来るのだが「やる気」が持続しない。 バッファは悪魔時代には名前はよく耳にしていたが 家事全般が普通に出来る拙者が、 「やりたくなけりゃ、やらなきゃいーじゃん」 文句を云いながらもついつい動いてしまうこの性分が憎いことも有る…
蒼い空の下、白いシーツのシワを伸ばし、洗濯竿に掛ける。 その自分の姿を可笑しくも、 なにか安堵のようなものが胸の奥に広がる 「………拙者は、そして皆も 生きて…いるのか…」 |
「……その前掛けは自前でゴザルか…?」 「手伝おう。」 窓の外からは庭が見渡せる。 「…なぁ、いつまでオレ達はここに居るんだと思う?」 しばし無言のまま皮を剥く音だけが聴こえる。
「これで全部でゴザルな。」 さて。この膝の上のイモの皮の残骸をゴミ箱へ… ………………ザバッ ブロの頭上めがけ、イモ皮を落とす。 「…………………!!!!」 声にならない叫びが下から響いた。
イモの皮にまみれたブロが上を見上げる。 やれやれ。短気だな。
…………いや、拙者のした事の方が子供じみているな…
ガンガンと大きな音を発て階段を昇ってくる。 鍋の火加減を調節しながらバッファが目で訴える。
「ニンジャー!!」 バタン!と扉を開けると同時に怒鳴り声が響く。 「ヤルなら相手になってやるぜ!」 「ええ!?ヤルのかよ!」
「……いいだろう。」 「おい!?」 バッファの驚きの声が飛ぶ。
「いや、ここでやろう」 「なにー!!?」 「オレは何処でもかまわないぜ」 先程、ジャガ芋を剥いた小ナイフを手にする。 …そのナイフの持ち手をブロに向ける。
「…は?…」 素頓狂な声を出しつつ、反動で右手にナイフを受取る。 「そしてコレもだ」 ブロの宙に浮いてる左手に赤い大き目の林檎を乗せた。 ………………… ブロが理解するのにしばし間が有った。 「なんのつもりだー!莫迦にしてンのかよ!」
「……お前は『林檎の皮剥いてるみたいだ』と云ったな? 「クソ!やってやろうじゃねーか!」 …………単純な奴だ……………
だが、善い機会と思った。 たかが林檎の皮剥きさえ。 夢中で林檎と格闘している姿はとても (我等も「戦い」が無ければただの人よな…) そんな光景が嬉しいような空しいような。複雑な感情が絡み合う。
日が落ちた頃。 全員が揃うと、今夜の宴が始まった。 今日あった事、昔の思い出など、ささいな出来事を語りあう。
食事も終え、お茶を出すタイミングで席を立つ。 「へへ〜!今夜はデザートが凄いんだぜ!」 「アップルパイだ!」 大皿にのせた不格好なアップルパイをテーブル中央に乗せ自慢気に話す。
一瞬、アタル殿とアシュが固まった。 「な…なんだよ!?」 「なぁーんだ!私はてっきりあの夜の悪夢……モガッ!」
宴のフィナーレは少し砂糖の焦げた苦味の有るアップルパイで幕を閉じた。
「さて、今夜は皆に渡すモノが有る。」 何だ? あらゆる疑問が頭を飛び交い、皆ゴクリと息を飲む。 「これだ。 」 包装を取ると出てきたものは…… 「………布…?」 「………まさか試合用の衣裳とかじゃねーよな…」 「……でも、これって………?」 「………エプロンのように見えるが…?」
「エプロンだ。」 「はぁーーー!??(×4)」
アタル殿の答に4人の声が揃う。
「なぁ、ソルジャー…いや、アタルさんよ、
「……………ふっ」
含み笑をすると、アタル殿は部屋から姿を消した。 「………オレ、ドイツ帰っていいかな……?」
「……スペインで牛が待ってるしなぁ……」
「………拙者も、弟子達の元へ帰りたい…」
エプロンを握りしめ満天の星空を見上げる男が4人、
空が 遠い。 今夜も宵星空だ。 絶境の選択日でゴザルかな。
……………合掌 |
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